『上高地の切り裂きジャック』 島田荘司評価☆☆☆☆☆☆☆(星7個)
あらすじ
表題作―長野県の上高地で、女優の死体が発見された。死体は、腹を切り裂かれ、内臓を取られて代わりに石を詰め込まれていた。関係者には鉄壁のアリバイが。さらに最も怪しい容疑者は犯行時刻と思われる時に横浜にいた!外国にいる探偵御手洗が電光石火の如く解決する!
もう一編―『山手の幽霊』
これはまだ探偵御手洗と書き手石岡が一緒に住んでいた頃の事件。
いわくつきの屋敷で怪事件が起こる。一ヶ月前に閉じたはずの核シェルターから死体が出てきた!さらにその死体の人物は一ヶ月の間に街中で何度か見かけられていた!死体が出てきた今、目撃された人物は幽霊だったのか!?
一度、画像をクリックして拡大画像を見てみてください。
書評
一個前の記事を読んだ方はわかると思いますが、『切り裂きジャック百年の孤独』とデザインをセットにしているんです。切り裂きジャック繋がりということでしょう。
これだけで星2個といった感じです。
肝心の中身ですが、上高地の方は御手洗が海外にいることもあって、どうも解決部分があっさりしすぎている感が否めません。
しかし、謎の魅力はあるし、良いテンポで進んでいくのですんなり読めると思います。
ただ、御手洗シリーズを読まない方からすると少し物足りないかもしれません。里美ちゃんもわからないし、文中で出てくる事件も知らないでしょう。もし興味が沸いたなら、里美ちゃんは『龍臥亭事件』に初登場しますし、『最後のディナー』を読んでみると良いかもしれません。
山手の幽霊の方は、御手洗のいた頃の話なので上の作品より少し詳しく知ることができます。この話に出てくる丹下警部は、『暗闇坂の人食いの木』にも関連していますよ。
事件に関してもアクロバティックなものなので、派手で面白いと思います。
また、御手洗が一緒なので、真相解明の際は演出たっぷりで楽しめるでしょう。
読者の代表としてワトソン役の石岡君がいるので、彼を通して御手洗のキャラクターを楽しめますよ!!
御手洗がいた頃の時代と海外にいる時代の二つの事件を収録しているということでバランスのとれた本となっております。
他の本に出てくるキャラクターや事件の名も出てくるので、興味が沸いたら、是非他のものを読んでください。
御手洗ワールドはとても広いので長く楽しめますよ!
『切り裂きジャック百年の孤独』 島田 荘司評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆(星9個)
あらすじ
舞台は西ドイツ、1988年に娼婦5人が次々と腹を切り裂かれて殺される連続猟奇殺人が起こった。奇しくもこの事件は世界的に有名な切り裂きジャックの百年後である。ジャックの再来か?謎であった動機は何なのか?
この事件によって百年前の切り裂きジャックの謎を解き明かされるのか!?
島田荘司が描く切り裂きジャックの新しい新解釈。
新装版にて帰って来た!!
今回は画像をクリックすると拡大画像になるので一度見てみてください。
書評
星9個となかなか良い点を付けました。
理由は二つ。
一つはブックデザインですね。集英社や講談社からも文庫で出版されていますが、デザインは普通です。
今回のデザインは個人的にとても気に入りました。こういうデザインだと売らずに持っておきたいと思うので評価に入れました。
後で紹介しますが、別の本とセットになっているんですよ。
理由はというと、やはり単に切り裂きジャックの新しい解釈を述べるのではなく、百年後にまた同じような事件が起きたという設定で、新解釈を小説風に魅せていくという点でしょう。
探偵というものはおおげさに真相を解説していくでしょう?場合によってはその場で実験して関係者の度肝を抜く演出をしたりしますよね?
この小説はそういうものだと思っていいと思います。
単に僕はこういう解釈だと述べるのではなく、小説というなかで面白く表現していくのです。
また、霧の立つロンドンなどの雰囲気もとてもよく出ています。読んだ方はわかると思いますが、『アトポス』のエリザベートバートリの、美しさ故に処女の血を浴びる話を読んだときのような暗く恐い怪しい雰囲気がとても出ています。(個人的にアトポスのほうが雰囲気はとてもリアルに感じましたが)
ホラーが好きな方、ミステリーが好きな方、切り裂きジャックの興味のある方など幅のある層をターゲットに出来る作品でしょう。
少し、解決部分においてご都合主義的な面もありますが、それでもこの分量で切り裂きジャックの恐さや妖しさを表現し、独自の解釈を披露したのは天晴れでしょう。
※ただ、この解釈が本当に切り裂きジャックの真相に値するのかはわかりません。ジャックロロジスト(切り裂きジャックの研究者)ではないので。矛盾点も出てくるかもしれません。
ただ、僕は納得したし、フィクションとして多いに楽しめました。
『帝都衛星軌道』 島田 荘司 著評価 ☆☆☆☆☆ (星10個中)
あらすじ
物語は一つの誘拐事件から始まる。身代金は15万円。犯人の不可解な意図がわからないまま、お金と人質を交換することになる。人質の母親が向かう。その先に起こった不可解な謎の連続!
範囲5kmのトランシーヴァーで犯人はどこから母親に指示をしていたのか??警察にしっかりとマークされた状態でどうやって犯人は母親と接触したのか??事件の裏に潜んでいた真相とは??東京という町の謎とは??
メフィストで連載された『帝都衛星軌道』の間に、『ジャングルの虫たち』を挟んだ長編ミステリー!
書評
正直言って、インパクトがありませんでした。画像でもわかるとおり、作者自ら自信作と言った割には…と言った感じです。
もしかしたら、島田荘司氏がやりたいようにやれたという意味で自信作なのかもしれません。
まず、不満だったのが、島田氏が熱中している死刑論や冤罪などのテーマが主題的になりすぎているところ。このテーマのためだけにとって付けたような誘拐事件の物語やトリックを用意したような気がします。
馬鹿な例えをするなら、お菓子の野球チップス。カード(テーマ)があってこその、チップス(小説)がある感じです。
ただ、これは人の好みによるでしょう。僕としては、トリックなどのミステリやエンターテイメントの要素を重視するので、今回は不満だったのです。テーマに興味ある方なんかは楽しめると思います。
もちろん、そういうテーマが嫌いなわけではありません。別に共感するわけではないですが。ただ、こういうテーマをするならエッセイなんかを書けばいいわけで。
小説を書くなら、もっとミステリ感に溢れ、エンターテイメントな作品を書いてほしいとファンとしては思うわけでして。
そういった意味では今回の作品は、ミステリとしても貧相なものです。東京という都市論に関しても。前作の『摩天楼の怪人』のニューヨークを舞台した作品のほうがはるかに面白かった!似たようなテーマですが、御手洗シリーズということもあってか、前作の素晴らしさを超えるものではありませんでした。
『帝都衛星軌道』は冤罪や死刑などのテーマを利用した小説というより、ミステリやトリックを利用して、テーマを語るエッセイという印象を持ちました。
ただ、しっかりとした作品です。ミステリとしても十分な作品だと思います。ストーリーもしっかりとあるし、間に関連したテーマの作品を挟むというのも面白いものでした。
そういった意味で☆5個です。
これを読むなら、『摩天楼の怪人』を間違いなく薦めますけどね。テーマとミステリのバランスも僕にとっては丁度いい具合なので。テーマとミステリが3対7ぐらいかな。そんな方には是非。
『摩天楼の怪人』 島田 荘司 著評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆(星9個)
注意 この本はパラッとめくってはいけません。イラストでネタバレになってしまいます。くれぐれもページを開かないように。
あらすじ
舞台はマンハッタン。高層ビルが立ち並ぶ島で、コロンビア大学助教授御手洗潔が事件に挑む。死に間際の大女優が50年前、34階にいた自分が1階で人を殺したと告白する。時間はたったの十分。そのとき停電してエレベーターは使えない。また当時ビルの窓ガラスがすべて割れる事件が発生する。原因は不明。さらに、二人もの女優が拳銃自殺をしている。そのビルに隠された謎とは!?
島荘御馴染みの壮大なストーリー。なんでもない事件に隠された時代の歴史を御手洗が見事に解き明かす。
書評
久しぶりに島荘らしさが出た作品でしたね。いちファンとしてはいうことないです。
まず、素敵な謎の数々。ざっと数えても5,6個はあります。細かいのを含めればもっと。またエジプト文字の暗号なんかもあり、遊び心は満載です。十分楽しめる量だと思います。
次に、ストーリー。相変わらず綿密に書かれています。僕でもマンハッタンの歴史が少し理解できるぐらいに紹介できています。あとがきでも本人が触れていますが、初心者ようのガイドにもなるぐらい。そしてそれが無駄になっていません。すべて事件に関わっています。ビルの高層競争も関係しています。
少し、注文をつけるなら、伏線が少し物足りなかったような気がします。ミスディレクションにはすっかりだまされてしまいましたが。
あっと驚くのもないかな。むしろ真実を聞いたときに「すごいなぁ」と感嘆しました。それが御手洗シリーズの特徴ともいえるような気がします。
ただ、感動とか熱いものはありません。感嘆もしますし、素晴らしい小説ですが、ミステリという意味で言っています。恋愛とか友情とかそういう意味での感動はないです。犯人の告白を聞いても僕はそう思いました。それを望んでいる人は違う本を読んだほうがいいでしょう。
総合的に、綿密なストーリー構成。壮大なトリック。シンプルな解決編ということで申し分ないです。文句なしの星9個です。
時間が掛かったけど久しぶりに堪能しました。
以下少しネタバレです。

