『ビタミンF』 重松 清 著評価 星9個(10個中)
内容紹介
体の栄養素の一つであるビタミン。色々な種類があるが、その中で小説によって心に感動を与えるビタミンF。Fにはfamily(家族)・friend(友達)など様々な「F」で始まるテーマが入っている。誰もが常に不足し、取り込もうとしている要素。この小説によってあなたの心の中にビタミンFを取り入れてはどうですか?
7編からなる珠玉の短編集。直木賞受賞作!
書評
まず、全体の書評から。この本は読む人によって色々なものを与えてくれる。僕はまだ独身の20代。父親にもなっていないが、こんなにもリアリティに溢れ、感動を与えてくれるものは初めてでした。この本との距離感は少し遠いのかもしれません。僕の場合、日本のどこかで、もしかしたら隣の家の中で存在しているような感覚で読みました。これを30代などの家族を持っている人からするともっと距離が縮まると思います。10代の人にとってみれば、父親の姿を垣間見るような感覚になるのではないでしょうか。重松氏が描く父親像が本当にリアルに感じて存在しているかのようでした。
色々なテーマで書かれています。そしてどれも正しい答えはないが、それでも自分なりの答えを見つけ出すために一生考え続けていくキーワードばかりです。そういう面だけでもリアリティを出しているポイントだなと思いました。(もちろん、空想がおもしろくないというわけではないです)
では、一作品ずつ少しの書評を。
「ゲンコツ」
子供の思春期とそれに対する父親の接し方がテーマなのかな。この時期に子供との距離のとり方が難しい。それゆえに大事な時期だと思う。いつだって、子供の最初の仮面ライダーは父親だったと思える。最後の少年の表情がとても良かった。
「はずれくじ」
これは思春期と父親の葛藤かな。どう接したらいいのか?それは父親だけでなく、子供も同じように考えている。その参考になるのが、父親の少年時代。父も昔は少年だった。自分の父親との思い出が二人の距離を縮めることになるんだなと思う。思春期になると周りに目を向け始めて、父親が少し小さく見えてしまいとまどうことがある。しかし、お互いに歩み寄りたいのが本当の気持ちである。こんなにうまくいくとは思わないが、希望を与えてくれる作品。
「パンドラ」
少女の万引き・恋愛観。これは父親にとってすごく難しい問題だと感じた。恋は盲目。失敗から学ぶことも多いけど、そんな経験はさせたくないという葛藤がある。万引きやひどい恋愛などいやなことはたくさんあるけど、一緒に希望が入っている。まさにパンドラの箱のような作品でした。
「セッちゃん」
これはすごくせつなくなってしまった。いじめが出てくる。それに対する娘のコメントがすごくつらかった。
『あの子を嫌いになるな』なんて言えないでしょ
これを言われたら、どのように返すのか?決して納得はしない。でもどう返答したらいいんだろう。なんか嫌いという理由が一番難しい。その「なんか」という部分が聞きたいのに。それでもちゃんとしたカタチで答えを出している作品。その答えに僕は納得はしなかったけど。じゃあ自分の答えは?と聞かれても今はまだ答えが出せない。
「なぎさホテルにて」
この作品は一番小説らしいストーリー。未来ポストのあるホテル。やっぱり、昔の思い出が経験となり、家族との問題に対するヒントやきっかけになるのかなと感じた。ここに出てくる子供が愛らしくてたまらなかった。
「かさぶたまぶた」
子供も難しい問題に直面する。そんなとき親はどうしたらいいのか。悲しいのは親がその問題に気付かなかったとき。完璧な父親を演じる人には子供が言えない。正論しか返ってこない。難しいかもしれないけど弱い部分を見せることも重要である。それで安心する子供もいる。現実は勧善懲悪だけの世界じゃない。あのウルトラマンだって3分しか地球にはいれないし、スペシウム光線だって最後にしか撃てない。いやな例えかもしれないけど、ガンダムに出てくるシャアだって、最後は負けたんだ。弱さを見せるということは強いことかもしれない。
「母帰る」
父親になった子供と父親の問題。いつか父親が老いたと感じるときがくる。そんな姿を見るのがどんなことか。そしてそれを感じたとき、自分はどうするんだろう。これが一番僕にとって距離が近かった作品。末っ子なんで父親はもうおじいちゃんに近い(笑)確かに老いたし、すべて父が正しいと思わなくなった。嫌いな部分もある。でも僕にとって父親は「腐っても鯛」。そんなことを考えさせてくれました。
どの作品も違った味を出してます。この短編集は平均点を必ず取れる作品かなと思う。身近なテーマなので。僕は結構当たりがあったので評価は高めの星9個にしました。最後の4作品がとくに良かった。尻上がりで楽しみました。
以下、ただの駄文です。

