『天涯の砦』 小川一水 著評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆★★(星8個)
あらすじ
地球と月を中継する軌道ステーション〈望天〉で起こった破滅的な大事故。虚空へと吹き飛ばされた残骸と月往還船〈わかたけ〉からなる構造体は、真空に晒された無数の死体とともに漂流を開始する。だが、隔離されたわずかな気密区画には数人の生存者がいた。
空気ダクトによる声だけの接触を通して生存への道を探る彼らであったが、やがて構造体は大気圏内への突入軌道にあることが判明する……。真空という敵との絶望的な闘いの果てに、“天涯の砦”を待ち受けているものとは? 期待の俊英が満を持して放つ極限の人間ドラマ。
紹介
極限の状況下で、めぐる人間ドラマを本格SFを舞台に描いた作品。
もともとジュブナイル向けを書いていた実績もあるので、きちんとキャラクターや展開に労力を割いていて、SFを知らない方にもお奨めです。
もちろん、なぜ事故が起こったのか?や地球と月の関係などはしっかりとSFで構成されています。
この世界は、21世紀末の時代を描いているのですでに月に移住している人がいます。その月にすむ人と地球にいる人との緊張関係も関わってくる。この部分が結末に繋がるのですが、それ以外は生死をかけた人間ドラマが中心です。
事故に巻き込まれた人たちなんですが、すごく人間臭くて魅力的です。
みんなで力を合わせて頑張ろうという風にはならないのが良い。みんなそれぞれ思惑があって、摩擦するのが素晴らしい。
ひねくれた高校生も出ます。こんな状況でこいつらと一緒なんて嫌だなぁと思いながら読んでました。
大人のほうも、人生長いせいで色々な傷を背負っていて魅力的です。そんな大人同士が一緒に生きようとすることで、影響されて成長していく過程が素晴らしい。
映画の『アポロ13』とか好きな方にお奨めしたい。『アルマゲドン』の宇宙でのシーンもこんな緊張感があった気がするな〜。
是非どうぞ。
『老ヴォールの惑星』 小川 一水評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆(星9個)
内容
4編を収録した中編集。テーマとしては、環境が主体にどう影響し、主体はどのように進化していくか。
迷宮の牢獄に放り込まれた人間が、生きるためにいかにその中で社会を形成していくかを描いた「ギャルナフカの迷宮」、ガス惑星に住む奇妙な知性体が、世代を超えて進化への道を歩む表題作「老ヴォールの惑星」、現実とは何なのか?仮想現実と現実の違いは?といったテーマで描かれた未知との遭遇もの「幸せになる箱庭」、陸地がなく夜もない海の中で、救出もない。その中で唯一、人と対話できる通信機だけで生き抜く男の物語「漂った男」
2006年第37回星雲賞日本短編部門
小川一水公式ページ→こちら
ハヤカワ文庫JA(Japanese Author)から出ています。720円
書評
飛浩隆氏の『象れられた力』とともにお奨めする中編集の傑作です。
小川一水氏は、ライトノベル出身でもあるので、とても読みやすいです。初心者にとても向いてるでしょう。もし、僕がSF作品を紹介してと言われたら、この本にしますね。
それぐらい抵抗なく読めます。テーマとしてもそこまで難しくないものなので。表題作と「幸せになる箱庭」が少し、変わっていて慣れていないかもしれませんが、これこそSFといった感じで素晴らしいです。
個人的には、「ギャルナフカの迷宮」のほうが表題作っぽい名前のような気がしたのですが、今思えば、このタイトルと表紙でよかったなと思います。読んでみれば、僕の言っていることはわかるでしょう。
「漂った男」は、筒井康隆氏のようなブラックユーモアを少し感じた作品でもありましたね。解説では、星新一氏を挙げてました。
「幸せになる箱庭」は、神林長平氏の『天国にそっくりな星』や『マトリックス』が好きな方は好きだと思います。テーマも似たような感じなので。
総合して言うと。
ライトノベル出身だけあって、読みやすい。使われている単語も専門用語ばかりではないのでわかりやすい。テーマもそれほど突飛なものではないので理解しやすいといった感じで初心者の方も楽しめるでしょう。ただ、中身はしっかりとSF作品なので、SFを十分に味わえると思います。
ベテランの方はこの作品のどこを評価するんでしょう?初心者の僕はちょっとわからないですね。
これが気に入った方は小川氏の長編『第六大陸』をお奨めします。『プラネテス』を好きな方も是非どうぞ。表紙はプラネテスを書いてる幸村誠氏ですよ☆こちらも星雲賞長編部門を受賞しています。

