『有頂天家族』 森見 登美彦評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆★★(星8個)
あらすじ
糺ノ森に住む狸の名門・下鴨家の父・総一郎はある日、鍋にされ、あっけなくこの世を去ってしまった。
遺されたのは母と頼りない四兄弟。長兄・矢一郎は生真面目だが土壇場に弱く、次兄・矢二郎は蛙になって井戸暮らし。三男・矢三郎は面白主義がいきすぎて周囲を困らせ、末弟・矢四郎は化けてもつい尻尾を出す未熟者。
この四兄弟が一族の誇りを取り戻すべく、ある時は「腐れ大学生」ある時は「虎」に化けて京都の街を駆け回るも、そこにはいつも邪魔者が!かねてより犬猿の仲の狸、宿敵・夷川家の阿呆兄弟・金閣&銀閣、人間に恋をして能力を奪われ落ちぶれた天狗・赤玉先生、天狗を袖にし空を自在に飛び回る美女・弁天。狸と天狗と人間が入り乱れて巻き起こす三つ巴の化かし合いが今日も始まった。
紹介
京都に住む狸と天狗と少しだけ人間のお話。
雑誌「パピルス」で連載されていたのをまとめて修正したのもだが、相も変わらず森見節が炸裂している。
少し、古い時代の香りがする文体で、しれっと笑いどころを語るのはとても愉快。
小難しくって古臭い風にこのストーリーを語られるととても衒学的な雰囲気で楽しめます。
小説を読む楽しさの一つだと思います。
森見氏を知らない人もこれから読んでもなんら問題はないでしょう。好きになった人は他の作品に手を出さずには入られないぐらい森見氏の魅力に溢れています。
『太陽の塔』みたいな作品はもう書かないのかな?ああいう文学っぽさが出てるほうも好きですけどね。今回の小説はやっぱり『夜は短し歩けよ乙女』好きに向けた小説ですね。
前々作「夜は短し歩けよ乙女」ではまった僕もこの作品を読み始めるとすぐに安心しました。森見さんは変わらず面白いなと。
ベタな話ですが、これを読むとアニメの平成狸合戦ぽんぽこを思い出しますね。狸が最後祭りを盛大にするシーンなんかは森見氏に通じるところもあると思います。
クライマックスのシーンは「夜は短し〜」の如く、狂喜乱舞に京都の町が騒ぎますので
圧巻です。相変わらず色々なエピソードを組み合わせるのがうまい。
少し、不満な点は二つ。
一つは、章ごとに少し導入部分が書かれているところ。雑誌連載をしていたせいですが、本にする際は省いてもいいのでは?と思いました。
もう一点は、魅力あるエピソードがあっさり書かれているところ。偉大なる父総一郎が鞍馬天狗相手に化かすエピソードなんかはもう少し詳しく書いてくれても良いのでは?と思いました。
前者は仕方がないですが、後者に関しては個人的に不満なだけで、それは僕が総一郎含めキャラクターにとても魅力を感じているからこそだと思います。
どのキャラも生かされているので、個々のエピソードをもっと詳しく聞きたい!と思う読者の欲望そのものですね。
それぐらいキャラクターが魅力的に描かれていると思ってください。
それにこれはタヌキシリーズですので、まだまだ続く予定です。
なので最初からキャラクターを曝け出すわけではない。これからもっとキャラの色々な面が出てくるでしょう。楽しみです。このシリーズはまだ始まったばかり。
『鴨川ホルモー』の万城目学氏が好きな方も是非。畠中恵氏のしゃばけシリーズを好きな方にもお奨めします。
読後は、これからが楽しみだと思うことでしょう。
良かったら読んでみてください。
『新釈 走れメロス』 森見 登美彦祥伝社 1400円
評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆★★(星8個)
内容
名作も含めた古典文学を森見氏が独特の文体と発想で
新解釈した5編。
『山月記』『藪の中』『走れメロス』『桜の森の満開の下』『百物語』を収録。
紹介
教科書なんかで山月記やメロスなんかは覚えている方もいるでしょう。
百物語もどんな話かは知ってる人も多いと思います。
まぁ知ってなくても十分楽しめますよ!
敷居が高い古典文学へのいい出会いにもなるはず!
うまく原作の良い味の部分を表していて面白いですね。
まあ、原作の読みどころは人それぞれかもしれませんが、作者はこの部分を見せているんだなと感じると思いますよ。
また、原作を読んでみたいと思わせる小説ですね!
すべてを紹介はしませんが、2つだけ。
『山月記』
僕もそうなんですが、やはりなんといっても虎になってからの主人公の独白の部分が素晴らしい。新釈でも斉藤秀太郎という人物の独白はとても怪しく、鋭利で心貫くものでした。
あの狂ったようでいて、どこかまだ人間味のある部分がとてもうまく表現されています。
『走れメロス』
表題作なだけあって、一番面白かった。
何よりもあの友情の証明方法が素晴らしいですね。そして京都市内を逃げ回る様相はテンポ良く、コメディタッチで素晴らしいです。
『夜は短し歩けよ乙女』なんかにも通じるドタバタコメディとなっていますね。
最後に、補足
5編ですが、すべてキーワードや登場人物が関連されています。
一つの物語の主人公が他の話に出てきたりしますので、そういった意味でも楽しめますよ。
森見ファンの方も、図書館警察や猫炒飯など独特のセンスに思わずニヤリとするでしょう!
面白いですけど、まだまだ期待しているので星8個!
『夜は短し歩けよ乙女』のレビューはこちら
久しぶりに原作を読みたくなったなぁ〜。
『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆★★(星8個)
角川書店 1500円
あらすじ
黒髪の乙女」にひそかに想いを寄せる「先輩」は、夜の先斗町に、神社の古本市に、大学の学園祭に、彼女の姿を追い求めた。二人を待ち受けるのは奇々怪々なる面々が起こす珍事件の数々、そして運命の大転回だった!(amazonより引用)
甘酸っぱい青春と片思いが独特の文体で描かれる連作短編集
本屋大賞第二位
紹介
一つ目を読んだときに思ったのがジブリ映画の「千と千尋の神隠し」です。
読んでいるとまるで千のような気分になってしまいました。
独特の文体で描かれる京都の舞台はまるできらびやかな新しい世界なのです。そして、出てくるキャラクターはどれもどこか奇妙で、ストーリーを色付けています。
一つ目は京都の木屋町などの夜が主役の町を舞台とするのですが、それがまるで妖怪たちの百鬼夜行と言った感じです。
極めつけは、李白というおじいさんが出てくるんです。千と千尋で言えば湯ばあばみたいな位置づけなんですが、そのおじいさんが乗っているものが、なんと電車なんです。三階建ての電車一両でその中は様々な部屋があるそうです。
その舞台は、千と千尋の温泉旅館みたいに魅力的になっています。
テーマ的には王道の青春と片思いだったりするのですが、そのテーマを描くストーリーがとても変わっているので面白いですよ。
四つの短編ですが、出会い・古本市・学園祭・風邪など男なら一度は夢見るシチュエーションが用意されています。
今回は独特の古風な文体だけでなく、ストーリー自体もしっかりあるので、文体が合わない方も楽しめるでしょう。
『太陽の塔』の進化版といったところでしょうか。
お奨めです。普段本を読まない方も楽しめると思いますよ。
古い文体なので、少し馴染まない言葉が出てくるかもしれませんが。
では。
『太陽の塔』 森見 登美彦評価 ☆☆☆☆☆☆★★★★(6個)
新潮文庫 420円
あらすじ
主人公は京大に通う5回生。彼は日々癖のある男友達とくだらない論議をして、妄想を楽しんでいた。そんな大学生活だったが、遂に彼女ができる。しかし、主人公は彼女に振られてしまった。その頃から、彼はなぜ振ったのかを見極めるために彼女を研究し始める。
クリスマスも迫った京の都で、主人公を筆頭に、もんもんとした男達が闊歩する青春小説。
日本ファンタジー大賞受賞作品
感想
こういうのを童貞文学っていうのかな。
暗黒の大学生活を送ってきた人には身に染みるような小説ですね。
特徴は、その古風な文体です。語り方がとても古臭くて、使う言葉も古い時代を感じます。古い純文学を好きな方は合うように思えます。
実際、作者もそういう本を読んできたんじゃないかな。
ストーリーは、あまり進みません。自分を振った女性を研究するという流れで進みますが、それよりも男達との悶々とした会話などのほうが多いです。だからこそ、青春と言えるのかも。
もう一点は、少しコメディタッチな部分があります。暗い青春ということで自虐的なことが多いですが、つい笑ってしまう部分があります。
古風な文体から編み出す笑いも大きな魅力の一つ。
最後は少し幻想文学めいた部分がありますが、これぞ文学といった感じでしたね。
この時代に純文学というものが流行っているのかわかりませんが、これからもっと伸びていく作家になってほしいものです。
綿矢りさや森見登美彦のように京都出身の作家が活躍することは少し嬉しいもんですねぇ。

