G.T.T.B.A.M.

Aarchive 『2006年08』

teitoeisei『帝都衛星軌道』 島田 荘司 著


評価 ☆☆☆☆☆ (星10個中)

あらすじ
物語は一つの誘拐事件から始まる。身代金は15万円。犯人の不可解な意図がわからないまま、お金と人質を交換することになる。人質の母親が向かう。その先に起こった不可解な謎の連続!
範囲5kmのトランシーヴァーで犯人はどこから母親に指示をしていたのか??警察にしっかりとマークされた状態でどうやって犯人は母親と接触したのか??事件の裏に潜んでいた真相とは??東京という町の謎とは??

メフィストで連載された『帝都衛星軌道』の間に、『ジャングルの虫たち』を挟んだ長編ミステリー!



書評
正直言って、インパクトがありませんでした。画像でもわかるとおり、作者自ら自信作と言った割には…と言った感じです。
もしかしたら、島田荘司氏がやりたいようにやれたという意味で自信作なのかもしれません。

まず、不満だったのが、島田氏が熱中している死刑論や冤罪などのテーマが主題的になりすぎているところ。このテーマのためだけにとって付けたような誘拐事件の物語やトリックを用意したような気がします。
馬鹿な例えをするなら、お菓子の野球チップス。カード(テーマ)があってこその、チップス(小説)がある感じです。

ただ、これは人の好みによるでしょう。僕としては、トリックなどのミステリやエンターテイメントの要素を重視するので、今回は不満だったのです。テーマに興味ある方なんかは楽しめると思います。

もちろん、そういうテーマが嫌いなわけではありません。別に共感するわけではないですが。ただ、こういうテーマをするならエッセイなんかを書けばいいわけで。
小説を書くなら、もっとミステリ感に溢れ、エンターテイメントな作品を書いてほしいとファンとしては思うわけでして。

そういった意味では今回の作品は、ミステリとしても貧相なものです。東京という都市論に関しても。前作の『摩天楼の怪人』のニューヨークを舞台した作品のほうがはるかに面白かった!似たようなテーマですが、御手洗シリーズということもあってか、前作の素晴らしさを超えるものではありませんでした。

『帝都衛星軌道』は冤罪や死刑などのテーマを利用した小説というより、ミステリやトリックを利用して、テーマを語るエッセイという印象を持ちました。

ただ、しっかりとした作品です。ミステリとしても十分な作品だと思います。ストーリーもしっかりとあるし、間に関連したテーマの作品を挟むというのも面白いものでした。
そういった意味で☆5個です。



これを読むなら、『摩天楼の怪人』を間違いなく薦めますけどね。テーマとミステリのバランスも僕にとっては丁度いい具合なので。テーマとミステリが3対7ぐらいかな。そんな方には是非。
teruteru『てるてるあした』 加納 朋子 著


評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆(星9個)

あらすじ
主人公の照代は、どうしようもない親の借金のせいで高校進学が出来ずに、佐々良(ささら)という町で遠い縁の久代というおばあさんの家に住むことに。その町で不思議なことがたくさん起こる。家に出る女の子の幽霊、あて先不明のメール、未来が予言できる女子高生など。照代はささらという町と人を通じて、成長していく。久代さんの内面とは?親というものは?そしてその親を見る子供は?
様々な角度から人を描き、ささらという町の雰囲気を作り出す文章に載せられた、人を感じるストーリー。

※この作品は『ささら さや』という小説にも関連しています。



書評
とても心が温まるストーリーでした。一見、とても不幸に思える主人公もあまりそういう風には思えませんでした。

それはささらという町を舞台にしているから?

町の時間の流れがとても凪いでいる感じで、ほんわかしていました。
田舎の設定だからだろうか。出てくるキャラもそれぞれ事情がありながらもとても好感の持てる人ばかりでした。
そんな人たちに囲まれている主人公の照代が幸せに見えたのかもしれません。

この作品には親と子をテーマにしています。照代と久代の関係も、親子ではないにしても、やっぱり親と子の関係を感じます。
その点でよかったのは、やはり親子の成長でしょう。親が子を育てるだけでなく、それによって親も弱さを見せ、成長していく姿がありました。照代のどうしようもない親も同様にです。

今回はミステリではないと思います。広義的にみても。
しかし、とても心温まるいい作品でした。照代の視点から描かれる文章は、大人の自分からしてみれば、子供の視点が新鮮であり、懐かしくもあったのだと思います。

湯本 香樹実氏の『夏の庭』や吉本ばなな氏を好きな方はお奨めしたいと思います。



※ちなみに僕は、前作の『ささら さや』は未読です。あまり関係なく楽しめますよ。舞台が同じで、少し関連している程度です。前作の主人公のさやさんも出ています。とても魅力的なキャラで。
僕の一番の好みです(笑)

deathnote『DEATHNOTE Another Note』西尾 維新 著


評価 ☆☆☆☆☆☆(星6個)

あらすじ
漫画デスノートで触れられた「ロサンゼルスBB連続殺人事件」の物語。休職中であった南空ナオミのもとにLから事件を手伝ってくれと依頼が来る。その事件とは3人の連続殺人事件。それぞれ違った手法で殺され、部屋には藁人形が打ち付けられている。この犯人を捕まえるために南空ナオミが現場を徹底分析し事件のミッシングリンクを探していく。ナオミが現場に出会った人物は何者??BBとは何か??
新世代の作家西尾維新が描くデスノートのサイドストーリー



書評
一言で言えば、「可」という感じでしょうか。
帯には「あなたはLの伝説を見る」と書いてありますが、それは違うでしょう。ほとんど南空ナオミの物語を読んだ気分です。
確かにLのナオミをプロデュースした観察力や事件の俯瞰的な立場から解決した力はすごいかもしれませんが、Lを好きな人からすればがっくりしてしまう方も多いのではないでしょうか。

語り手は漫画にも出てきたメロを使っていますが、語り口も漫画のイメージとは違います。南空ナオミの心理描写も漫画とは違ってコミカルなものでした。すべてにおいて西尾維新らしさが出ているものです。

物語は完全なミステリとなっています。密室やミッシングリンクなどミステリ常連のものが扱われています。メインのトリックも使い古されているものです。ただ、このメインのトリックについてはデスノートのノベライズがゆえにといったところでしょうか。


すべてにおいて中途半端な気がしてなりません。

デスノートの設定が好きな方はただのおまけ感覚になってしまうと思います。僕もキャラよりも設定に魅力を感じていたので、少し残念な気持ちでした。

デスノートのキャラが好きな方(Lや特に南空ナオミ)は活躍した過去を垣間見れるということで、満足されるでしょう。しかし、L好きからすれば、どうなのだろうか??

西尾維新が好きな方は、あらゆる部分において西尾らしさが出ているので、楽しめると思います。デスノートのキャラもしっかりと西尾版になっていますので。

ミステリが好きな方は、普通なのかな。トリックも真新しいものではないので。ただどんでん返しのトリックについては少しアンフェアな気もします。すべての読者向けではないので。ただ、事件の謎が魅力的だったので、それを解決していく過程も楽しめるものだと思います。
(個人的に言えば、ミステリが好きな僕はデスノートの設定を使ってまた面白い作品を書いてくれると期待していた。デスノートの設定は謎解きに向いていると思うが。それは漫画でもうやっているということなのだろうか。)



総括
デスノートのノベライズということが互いを縛りあっているということでしょうか。あれだけ、キャラも西尾らしくするのなら、デスノートの時系列にこだわらなくてもいいのではと言った印象です。だから中途半端と感じるのかなと思いました。どれも魅力的だし、平均点は稼いでいるのですが、もう一歩。西尾好きな読者が一番良かったのかなと思います。
キャラのイメージについては個々で捉える印象がちがうものですから仕方がないのかもしれません。しかし、原作で南空ナオミはクールで優秀とLが言っていたはずなのですが…。
話題作がゆえに期待も大きかったのですが、少し不満が残ってしまいました。

最後にミステリ好きとして余計なお世話を。
この本は漫画のデスノートを読んでから、挑戦してみてください。(ほとんど読んでいる方ばかりだと思いますが)原作を読むか読まないかでひょっとすると大きく違ってくる部分があります。一応、そんなこともないように伏線がありますが、個人的に弱すぎると僕は思います。もっと引っ掛けるべきだと個人的には思いました。

レモン(小説)をすっぱくするか甘くするかの違いです。どうせならミラクルフルーツ(漫画)を食べてからレモン(小説)を丸かじりして甘く食べようとは思いませんか?


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