『ぼくが愛したゴウスト』 打海 文三 著2008-04-04(Fri)
『ぼくが愛したゴウスト』 打海 文三 著評価 ☆☆☆☆☆★★★★★(星5個)
あらすじ
それは初めて、少年が一人でコンサートへ行ったときからだった。
帰り道に駅で人身事故を目撃してから、世界はどこか自分と違っていた。この不思議な世界、少年は何処へ向かうのか……。
紹介
打海氏の作品の中でも少し変わった作風です。
ジャンルとしては、ファンタジーかSFといったところでしょうか。
しかし、打海氏の小説特有のジャンルとは別のところにある面白さがあります。
最後までストーリーを言っても特に問題のないように思えるぐらい読んでみないと面白さがわかりません。
今回は主人公の子どもの一人称で語られるのですが、小学五年生の一人称からかけ離れた語り口で物語が展開していきます。それはおいおい後でわかるのですが、この視点から見る周りの大人たちが魅力的に書かれています。
具体的に話すと、少年と事故現場で出会ったヤマケンという俳優の二人だけが彼らがいた世界とは少しだけ、しかし明確に違う世界に入ってしまいます。
これだけ言うとファンタジーみたいですが、面白さはそこじゃない。
要するに少年の家族やヤマケンの恋人などはいるんですが、もともと二人がいた世界の人物とは違うんです。そして、そこで問題が生じてくる。
少年にとって、その違う世界にいる一見そっくりな家族はどういう存在になるのか?
そして、家族にとっても、もう一方の世界から来たそっくりな自分の息子に対してどう思うのか?
これがこの作品のテーマとなり、重く語られます。一般的な小説だともと来た世界に戻ろうとするし、
もともとこの世界にいたもう一人の自分と入れ替わろうとするでしょう。
しかし、この小説では、違う展開をしていきます。
戻ろうとする努力はします。しかし、それ以上にそっくりな家族に対して主人公は愛を求めてしまう。
決定的に違うことはわかっていても、それでも頼ろうとするし、家族もその主人公に対し、とまどいながらも愛したいという思いがつのる。
そして、事態は少し変わる。もしかしたらこれは誰かの脳内の世界じゃないのか?夢なのか?
もしそうならこの世界の人たちがゴウストなんじゃないか?
夢であろうともさめない限りこの世界を生きていくことになる。夢の世界で愛を求める。
そこに愛はあるのか?ぼくが愛したゴウストとは?
常に死の匂いがするこの世界にある愛とは?
その葛藤を描くためにこの設定があるのでしょう。
不満を言えばもう少し深く掘り下げて感情を描いてほしかったのですが、主人公の性格故かとても
淡々とした印象を受けました。
北村薫氏の『ターン』『スキップ』『リセット』などの作風が好きな方にはお勧めしたい小説です。
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