『夏の涯ての島』 イアン・R・マクラウド 著2008-05-17(Sat)
『夏の涯ての島』 イアン・R・マクラウド 著早川書房 2310円
評価 ☆☆☆☆☆☆☆☆★★(評価8個)
内容
ときは1940年、ヨーロッパ。さきの世界大戦ではドイツが勝利し、フランスはドイツと平和協調路線をとった。これに対し、ファシズムと軍事拡張路線を推進するイギリスは、国際社会で孤立していた。国内では、好戦的なムードと力のある指導者への崇拝の機運が満ちている一方、政府の政策によってユダヤ人や同性愛者は屈辱的な差別を受けていた。病に冒された老境の歴史学者グリフは、この国のカリスマ的指導者ジョン・アーサーの旧知として恩恵に与っていたが、こうした現状に疑問を抱いてもいた。なぜなら、全体主義で牽引力を発揮するジョン・アーサーこそ、かつて若く輝ける日々にかれが愛した男であったからだ??架空の時代を背景に、繰り返される歴史上の愚行と個人の無力を鮮やかに見せる表題作(世界幻想文学大賞・サイドワイズ賞受賞)。
アーシュラ・K・ル・グィンの未来史を思わせる、マクラウド独自の異星文明世界を舞台に、女性ばかりの惑星でめばえた少女の初恋と成長を描く「息吹き苔」(アシモフ読者賞受賞)。
人類がもう宇宙に興味を失った近未来、最後のSETI研究者として地球外からの交信に耳を澄ませる男がいた……地球の、異邦人の、そしてひとりの人間の孤独を多層的に示した傑作「ドレイクの方程式に新しい光を」。
SF的発送に端を発し、さまざまな“変化”に直面した人間の心の機微を、詩情に満ちた物語に結実させた選りすぐりの傑作七篇を収録する、日本オリジナル短篇集。
紹介
あまり海外作品を読めていない自分ですが、ふと幻想文学を読みたいと思い、丁度今年の1月に出たので図書館で借りてみた。(翻訳ものは高いなぁ。刷る数が少ないからか。)
世界幻想文学大賞も受賞している珠玉の短編集ですが、調べたらびっくり。
実はあの村上春樹氏の『海辺のカフカ』も2006年に受賞されています。全然日本でニュースにならなかった気がするんだが…。結構すごいことだと思うんだけどなぁ。
で、このマクラウド氏の短編集は幻想SFというジャンルに入る。
SFという設定を使い幻想的な文体で、人間の成長や愛、家族、老いというものをものの見事に表現している。たぶん本屋さんで少しパラ読みするだけで幻想小説だなとわかる文体です。SF好きにもお薦め。以下少し気になったものを紹介
「わが家のサッカーボール」
収録作品中、唯一明るくポップな作品。登場人物が全員、色んな動物に変身できるんだが、その変身する様がコメディタッチで面白い。でもひょんなことからお母さんがある動物になってしまい戻れなくなる。その理由とは…?タイトルのサッカーボールも物置の隅に置いてある古ぼけたやつのことです。
そこに家族の絆がくっきりと入ってくるのが良い。
「チョップ・ガール」
戦闘機で戦争に繰り出す飛行場で働く少女の物語。その少女と付き合うと帰ってこれないという噂が立つ。その少女の恋と常に死と隣り合わせにある兵士の物語。飛行場での雰囲気と少女の語り口がとても退廃的で淀んだ雰囲気がある。森博嗣氏の『スカイ・クロラ』シリーズが好きな人にお薦めかも。
「息吹き苔」
飛浩隆氏のグラン・ヴァカンスのような異世界の物語。その世界では全員が女性であり、一人の女性の恋愛を描く青春ファンタジー。これが一番幻想的な世界でとても面白かった。自分の貧困な語彙では説明できないんだけど、言葉一つ一つで描かれる世界がとても色鮮やかで素敵だった。という単なる感想しか言えない…
表題作はイギリスの改変歴史ものなんだが、これは読者としての自分が駄目だった。たぶんとても面白い小説なんだろうけど、使われている描写に慣れなくて楽しめなかった。もっと海外翻訳を読めば楽しめるんだろうけど。読みなれている方には面白いものだと思う。
うまく、紹介できなかったが、とても文体がしっかりしているし、SFだからといって敬遠するものではないので良かったら読んでみてほしい。翻訳者の方の力量も申し分ないと思うので。
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